古代エジプトといえば?
ラピスラズリやトルコ石輝く、ツタンカーメンの黄金仮面が浮かぶ人は多いかも。
或いはナイル川と砂漠を背景に、遮るものなき快晴の天を衝く、ピラミッドやスフィンクスでしょうか!
豪奢でスケールの大きいイメージが知られがちです。
今回はそんな古代エジプトを象徴する特徴の一つ、聖刻文字ことヒエログリフとはどんな文字かを見ていきます。
ヒエログリフとは
「豪奢でスケールの大きい」……。
言い換えると「見栄っ張り」な特徴は、古代エジプトの文字にも引き継がれています。
ヒエログリフは特に、政治や宗教の中心で使われた文字です。
神殿で壁に彫り付けたり、王墓で壁画と一緒に描いたり。
政治文書の記録に使ったり、プロパガンダの碑文を刻んだり。
何なら文学作品だって書かれたし、恋文やポエムも書かれたそうですが……。
――古代エジプトの文字はヒエログリフだけではありません。
より崩した行書体のようなヒエラティック(神官文字)、末期に生まれた文法まで違うデモティック(民衆文字)などもあり……。
より見栄を張りたい時に使うのがヒエログリフ(神聖文字、聖刻文字)だったと言えるかも?(笑)
とっても複雑な文字なので、読み書きできるのはごく少数のエリートだけでした。
鞭打たれながら頑張って学んだみたいですよ。
古代エジプトでは「神の言葉」と呼ばれ、その名の通り神が発明したものと考えられました。ヒエログリフはギリシャ人の命名です。
紀元前2800年だとかの、第一王朝時代に基礎が確立されていき……紀元後まで使われ続けました。
実は3000年以上使われた、えげつなく息の長い文字です。こんなに不便なのに!(笑)
ヒエログリフの特徴
どう不便なのか――もとい、具体的にどんな文字かというと、「絵のような」のに、「ほとんど表音文字」の、「見た目至上主義」の文字です。
絵のようなのは画像の通り。まるで絵文字のようですね。
……中心の大きい二人は、文字ではなく絵ですよ! ラー神(左)に何やら捧げ物(?)をして見えますね。
絵の隙間を埋めるように上部にあるのが、絵文字っぽいヒエログリフの文章ヽ(=´▽`=)ノ
でもこれ、「ほとんど表音文字」です。
アルファベットの起源とかいう話もあって、日本語の名前をローマ字で対応させて書くこともできますよ。(アルファベットの起源は「フェニキア文字」と言いますが、ヒエログリフの誕生はそれより1000年以上早いのです)
そして「見た目至上主義」なのは、つまり絵のような形ってこと――だけではないのよ実は!
例えば、右からも左からも上からも書けるとか!
単語の境目関係なく、見た目が美しい感じに並べられている(ので初心者泣かせ)とか!(笑)
というかこんな複雑な文字で、鏡文字書けなきゃいけないんですよ、どういうことですか! そりゃ読み書きできる人少ないですよ!
主に右から左が多いみたいですが、ほら、シンメトリ(左右対称)って美しいでしょ……ゆえに、わざわざ鏡文字を門の左右に書くとかするんですよ! 最初の小神殿の画像がそうでしょ。
右からが多いのはアラビア語とか思い浮かべていただければ、地域的に納得のセム語系かも。
ちなみに「母音を表記しない」という特徴もありまして、これもアラビア語と同じですね。本来の読み方はどこにも書かれていないので、我々が使うのは便宜的な読み方です。
タイムスリップしたら、ツタンカーメンは「タゥテアイエンキアメーン」とか呼ばれているかもしれません。知らないけど。
ヒエログリフの読み方
さて、左右が自由ならじゃあどっちから読むの、となる訳ですが、これは簡単!
縦書きは上からです。横は鳥や動物、人間の頭が向いている方から読みます。
基本は。
……特定のシチュエーションで逆向きもあるそうですが、それはそれ!(笑)
再びさっきの写真です。ちょっとわかりにくいけど、途中で文字の向きが変わっています。真ん中あたり。
右側の文字は人や水鳥みたいなのが左を向いているし、左側の文字は強そうな鳥が右を向いていますね。
わかるかな?
つまりこれは、二つの異なる文章が並んでいるということ。空隙なく別の文章を並べられる点でも、「右でも左でもどっちからでも書けるよ!」ってのは装飾向きかも。
見た目重視ですね!(笑)
右側はいくちゃんでも読めますよ。ネチェル・ネフェル、ネブ・タァウィ、ウセルマアトラー、サァ・ラー、ネブ……あれっ、なんだこれ!?(笑)
場所的に、多分、読まない気がする! 続きがラメセス、ディ・アンク、ミィ・ラー!
良き神、二つの国の主、ウセルマアトラー(=ラメセス2世)、太陽神の息子ラメセス、生きよ、太陽神ラーの如く。
こんな風に、たまにわかんないのに出会いますが、読み方わかればそれなりに楽しいもので(笑)初心者泣かせと申しましたが、皆さまにも楽しんでいただければ言語好きのいくちゃんとしては幸い♪
とりあえず、「アンク(生命)」(「♀」みたいな紐)は、しょっちゅう出てくるので覚えておきましょう!ヽ(=´▽`=)ノ
写真だと右側の人(たぶんラメセス2世)の絵の上の方に、「アンク(生命)」も並んでいますね。「△♀○!」みたいな感じになっていると思いますが、これの「♀」です。
「メス」でも「マーキュリー」でもなくて、結んだサンダルの(?)紐で生命です。
壁画でもよく、神様とかが手に持っています。あと壺の装飾とかでも使われています。
ヒエログリフは基本表音文字ですが、同音異義語を区別するための読まない表意文字とかあります。母音を表記しない分、同音異義語も多くなりますし。
「アンク(生命)」は読む表音文字でしょうか。あと読まない表意文字になったり表音文字になったり、場合によりけりでどっちでも使えるのとかあるんですよ。
……どっちでも使える(遠い目)
ちなみにツタンカーメン(トゥト・アンク・アメン)は、「アメン神の生ける姿」という意味。
気づきましたか? ここにも「アンク」が出てきていますね!
「トゥト」が姿で「アンク」が生命、「アメン」は神名と並べると……「姿・生命・アメン神」→「アメン神の生ける姿」です。後ろの単語が一つ前を修飾していますね。王名はこんな感じで、大抵意味を持っています。神名も大抵入っています。
ツタンカーメンの名前が書かれているヒエログリフは、丁度真ん中あたりに「アンク」の文字がありますよ。隣にウズラの雛がいます。「ウ」の音を表す表音文字です。それを囲むように「t」を表すパン……。
パン? まあ、伏せてあるカップみたいな小さい文字が二つありますね(笑)
これが楕円形の「カルトゥーシュ」に囲まれています。
ヒエログリフのカルトゥーシュ
いきなり出てきた「カルトゥーシュ」!
一体なんぞやと言うと、これはヒエログリフの専門用語です。
本来は端を結んで輪っかにしたロープだそうですよ。
ヒエログリフで言う「シェン(永遠、保護)」です。
輪っかにすることで縄の「終わり」がなくなる、つまり永遠ということですね!
終わったと思ったら次の始まりがあるのは、死んだと思えば来世が始まるみたいですね。
「アンク(生命)」ほどじゃないですが、絵でも文でもよく出てきます。というかこう、「アンク」もそうですけど音のある表意文字ってよっぽど重要なので。それで色んなところに出てくるんでしょうね。
このヒエログリフ、元はギリシャ文字の「Ω」みたいな形をしています。
この円の部分を縦長に伸ばすとほら、画像の楕円形みたいになるでしょ。そんな訳で縄の端っこ、横棒みたいのが下に残っているのが見えると思います。言われなくても気づいた人は凄い。
他にも文字としての「シェン(永遠、保護)」は、「Ω」の下にあたる縄の端を縦に伸ばして縦長になることもあります。よく使うから応用の利く文字になったのかしら。ほら、見た目主義だから。わかんないけど。
ともかくこのシェンの中に王名を囲うことで、王の永遠性を象徴したり、王を保護したりという訳ですね。
この中が王名ってわかっていれば、それだけで王に関わる文章が推測できますね! 更に王名が読めれば……という訳で、初心者がまず注目すべきはこのカルトゥーシュです!
ヒエログリフ解読の際にも、カルトゥーシュが最初の手掛かりになったんですよ。
その辺の話はまた別の記事にて……(笑)
まとめ
ヒエログリフは基本が表音文字と言いましたが、それは文章の割合的な意味です。
文字の種類だけで言えば表意文字が非常に多いし、掘り下げるとキリがないほど奥が深いです。
まあ、一つの言語の文字ですし。
特に見た目重視の文字ですから、その分複雑になるのも仕方がないですね。全時代を通して5000文字とか6000文字なんて話もあります。
ただそれでも、お墓の定型文や王名は別。ちょっと学ぶだけで「これわかる! これ知ってる!」に出会えます。感動ですよ!(笑)
言語を学ぶと世界が広がります。
実際に1822年にヒエログリフが解読されて、我々の古代エジプトへの知識は格段に広がりましたが……それだけではありません。
「これは文字なんですよ」と言われるのと、実際に一部でも読んで解読できるのには大きな差があるのよ! その先の世界を実感できる感じです。
これは学んで初めてわかる感覚……!
ぜひとも皆さま、ほんの戯れに触れてみてください(笑)きっと楽しい世界が待っていますよ!
……と、某言語好き海産物は言(ry
参考文献は実際に私が学びに使ったものです。更なる学びが欲しければ――。
記事の主な参照先は下の二つですが、敢えて初心者向けの一つ目も上げておきます。参考にどうぞ(笑)
[主な参考文献]
斎藤悠貴『エジプト学ノート 聖なる文字ヒエログリフを知る』2006年
松本弥『ヒエログリフを書いてみよう読んでみよう 古代エジプト文字への招待』2000年
近藤二郎『ヒエログリフを愉しむ 古代エジプト聖刻文字の世界』2004年
などなど!
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