更新世はいつからいつまでで、どんな時代だったでしょうか?
地質年代の名称って、ぱっと見で凄く数が多いんですよね……。
正直順番もぐちゃぐちゃになるし、大昔のことだけあって、何だかピンとこない人も多いかと思います。
よって今回は、更新世がどんな時代か、世界遺産を手掛かりに掘り下げていきます。
更新世とは何?
更新世は地質年代――つまり、地球の時代の名称です。
地質年代はまず、古い方から陰生代と顕生代の2つに分けられます。
陰生代は〝先カンブリア紀〟とも言いますね。
そして、新しい方の顕生代は、最初が古生代、次が中生代、最後に新生代の3つです。
古生代は生命が大爆発し、多細胞生物が続出した時代と知られています。
アノマロカリスや三葉虫が有名ですが、陸上生物や魚類が誕生した始まりの時代でもありますね。
中生代は恐竜の時代。
ドラゴンの元ネタとも言えるこの巨大生物は、一部が鳥類として現代に残っていますね。
そして新生代は、哺乳類が台頭した時代。
強者たちの大量絶滅を機に、小さな動物たちが一気呵成に主要種族へと躍り出たのです。
ちなみに、古生代を6つに分けたうちの最初が、カンブリア紀です。
古生代より先に来る時代という意味で、それより前が〝先カンブリア紀〟なんですね。
そして、中生代や新生代も細分化されており、新生代の第四紀に更新世があります。
・地質年代は、先カンブリア紀(陰生代)と顕生代に分けられる。
・顕生代は、古生代、中生代、そして新生代と分けられる。
・新生代は更に、古第三紀、新第三紀、そして第四紀に分けられる。
・第四紀は、更新世と完新世に分けられる。
つまり更新世は、長い地球の歴史からすると、比較的新しい時代ですね。
更新世はいつから?
更新世の開始は、数字で言うと258万8000年前――つまり、約260万年前です。
かつては181万年前と言われていました。
しかし2004年頃から定義が見直され、80万年分も遡って再定義されたのです。
約181万年前、地中海に寒流が入り込みました。
同じ頃、アフリカで人類の化石も出土します。
だから本来は、この時期が開始に丁度良いねと言われていたのです。
しかし、地中海以外の海域では、寒冷化の開始は必ずしも一致しません。
また、人類の誕生も700万年前に遡ると言われるように……。
以前の根拠が通用しなくなってきました。
そこで議論が起こり、全地球的な寒冷化の開始時期を再検討することになります。
深海底コアと言われる、深海の堆積層が役に立ちました。
色んな分析法で見れば、寒冷化の始まりや氷床の成立期が見えてきます。
そして最後には、指標としてのわかりやすさも踏まえて境界が決められました。
それが、258.8万年前のこのタイミングだったのです。
だいたい全地球的に寒冷化が始まるくらいってことですね。
更新世はいつまで?
更新世の終わりは、完新世の始まりです。
その境界は、最終氷期から急激な温暖化へとシフトする頃。
具体的には、最終氷期最後の「ヤンガードリアス期」の終了をもって、更新世が終わるとされているようです。
年代で言うと、約1万年前。
ヤンガードリアス期は、新ドリアス期とも言います。
一気に温暖化が始まった直後、一時的に再び寒冷化した〝寒の戻り〟です。
この現象の理由は諸説あり、温暖化で氷が融けたことで、冷たい淡水や流氷が海表面を覆ったためだとか……。
そうではなく、地球外の物質が原因とする説もあるようです。
この頃の日本は縄文時代の草創期。
地質年代は気候などの変化をキーとしていますが、縄文時代は人類の文化が基準なので、ぴったりタイミングが符合するわけではありません。
しかし、せっかくなので日本の世界遺産『北海道・北東北の縄文遺跡群』と繋げてみましょう。
最終氷期が終わり、縄文草創期「大平山元遺跡」の〝最古の縄文土器〟が作られました。
そして完新世に入ると、縄文早期「垣ノ島遺跡」の〝世界最古の漆製品〟が生まれるのです。
垣ノ島遺跡については、旅記事を既に書きましたね。
さて、ここからは他にも様々な世界遺産を通して、更新世への理解を深めていきましょう。
『イルリサット・アイスフィヨルド』でわかる更新世の気候
グリーンランドには南極に次ぐ巨大な氷床があります。
その島の南西部に位置するのが、デンマークの世界遺産『イルリサット・アイスフィヨルド』です。
「イルリサット(Ilulissat)」は、グリーンランド語で氷山を意味します。
また、構成資産には、世界最大の氷河である「セルメク・クジャレク氷河」も含みます。
まさに、更新世の最終氷期に形成された氷河です。
氷河は、気候変動を研究する上で重要な指標です。
というのも、氷河を円柱状に掘削した氷試料――氷コアは、貴重な過去の情報の宝庫なのです。
例えば、氷を形作るH2Oの種類。
氷床が出来たり融けたりすることで、氷の中のH2Oの同位体比率が変わるらしい。
また例えば、氷に閉じ込められた気泡は、当時の空気そのもの。
その時代の温室効果ガス濃度がわかります。
他にも、火山灰や花粉などの粉塵も、見つかれば色々なことがわかりますね。
新第三紀最後の鮮新世から第四紀の更新世にかけて、寒冷化によりあちこちで氷河や氷床が大きく発達します。
これにより氷コアのサンプルも充実しました。
世界遺産『イルリサット・アイスフィヨルド』はそんな時代を象徴する遺産です。
更新世は、度重なる氷期・間氷期が繰り返されました。
現代に繋がるこのサイクルが周期的に安定してきた時代だったと、氷コアを始めとする試料の分析でわかるのです。
『オモ川下流域』で更新世の人類進化を知る
エチオピアの世界遺産『オモ川下流域』は、人類化石で有名です。
具体的には、250万年前~4万年前の猿人・原人の化石が、次々と発掘された名所ですね。
250万年前と言うと、丁度更新世が始まって間もない頃です。
更新世の始まりは258.8万年前ですから、10万年も経っていない計算になります。
そして4万年前ともなれば、現生人類以外の人類は、だいたい絶滅した頃のようですね。
オモ川は、エチオピアの国土半分を占める高地南部から、ケニアとの国境にあるトゥルカナ湖まで流れる川です。
この川や湖は、大地溝帯と言われる地質学的な重要地点に位置します。
大地の裂け目と火山が生まれる大地溝帯は、造山が活発で起伏の激しい土地です。
水とともに多くの堆積物が流れ込んだ渓谷には、火山灰が降り積もりますね。
集まった堆積物やそれによって出来た地層が、良好に保存されています。
この結果か、周辺では多くの人類化石が集中して見つかっているようです。
もちろん、地形そのものの変動が、人類の誕生に影響した可能性もあります。
『オモ川流域』ではなんと、猿人であるアウストラロピテクス属の大半が見つかっているとか。
また、猿人と原人の中間的な存在であるホモ・ハビリスも、250万年前の石器類とともに見つかっています。
ホモ・ハビリスは、ジャワ原人や北京原人として各地へ広がるホモ・エレクトゥスへと進化しました。
このホモ・エレクトゥスの化石も、もちろん『オモ川下流域』で見ることができます。
猿人から原人へと、更新世を通してこの地域で進化し、その都度各地へ広がっていったのです。
『アルタミラ洞窟とスペイン北部の旧石器時代洞窟壁画』に見える、更新世後期のヒト族の勢力推移
世界遺産『アルタミラ洞窟とスペイン北部の旧石器時代洞窟壁画』には、アルタミラ洞窟を含めて18の洞窟があります。
しかし、構成資産の一つである「ラ・パシエガ洞窟」の壁画は、現生人類ではなくネアンデルタール人が書いた可能性が高いようです。
発覚したのは、2018年の年代測定がきっかけ。
現生人類がヨーロッパに辿り着いたのは4~5万年前なのに、壁画がそれよりずっと古かったのです。
当時ヨーロッパにいたのは、旧人と言われるネアンデルタール人でした。
ネアンデルタール人も現生人類も、アフリカで生まれたホモ・エレクトゥスの一種が起源です。
ホモ・ハイデルベルゲンシスですね。
しかしネアンデルタール人は、更新世のより古い時代に、先んじてヨーロッパに存在していたのです。
「ラ・パシエガ洞窟」よりも後で生まれた構成資産である「エル・カスティーヨ洞窟」は、元々は世界最古級の洞窟壁画の一つと言われていました。
これですら4万年前くらいなのに、それよりずっと古かったのが「ラ・パシエガ洞窟」の壁画です。
そして、ネアンデルタール人は、更新世後期には絶滅しました。
4万年前以降には恐らく存在していなかったと、現在では言われるようです。
年代測定は、古くなるほど誤差も多くなります。
……もしかしたら「エル・カスティーヨ洞窟」の壁画も、ネアンデルタール人による作品かもしれません。
この後に描かれた洞窟壁画は、現生人類の祖先であるクロマニョン人によるものです。
18の洞窟壁画の描き手には、ヒト族勢力の拡散と興亡が表れているのです。
まとめ:世界遺産と更新世
更新世は寒冷化とともに始まり、氷床を形成し――。
また、温暖化とともに終わりを告げ、現代に続く完新世へと移り変わっていきました。
その時代幅は約260万年。
約258.8万年前から、約1万年前の頃でした。
冷えた地球は氷期と間氷期を繰り返し、激動の中で様々な人類も興亡しました。
しかし更新世が終わる頃には、人類と呼べる種は既に現生人類だけだったようです。
更新世を含む第四紀は、人類が誕生し、繫栄していく年代です。
そのため、人類が関わる世界遺産(遺跡)もいくつかあります。
ただ、人類の遺跡だけを見ると、専門家でもない限りは、直線的な人類の変化だけを追ってしまうことも多いでしょう。
本当は地球規模で、大きな変化が起こっているのに……です。
逆に、長大な地質年代の視点だけで見てしまっては、細かな人類文化の変化までピントが合わないことも多くあります。
だからこそ、文化遺産と自然遺産を併せ持つ世界遺産の視点が活きるのです。
総合的な視点は、壮大な地球の歴史の有機的理解に繋がります。
そうして色んな知識や視点が繋がれば繋がるほど、学ぶのも楽しくなるのではないかなぁなんて、書き手のいくちゃんは思うのです。
主な参考文献
主な参考文献、及びWebサイトは以下の通りです。
・日本地質学会フィールドジオロジー刊行委員会『フィールドジオロジー9 第四紀』2012年
・西弘嗣・高嶋礼詩「新生代の海洋環境と気候変動―海洋の長周期変動」『地球の変動と生物進化』2008年
・成瀬廉二「氷河の変動―陸水の長周期変動」『地球の変動と生物進化』2008年
・パット・シップマン『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』2015年
・NPO法人世界遺産アカデミー『世界遺産大事典〈上〉』2020年
・NPO法人世界遺産アカデミー『世界遺産大事典〈下〉』2020年
・BBCニュースJAPAN「ネアンデルタール人は美術作品を作っていた」2018年2月23日
などなど
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